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配信元URL
日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC173AW0X10C23A2000000/

この記事では、改正食品衛生法により、漬物業者にHACCPによる衛生管理の導入義務化が求められることが影響し、生産農家の35%が事業継続の意思がないと回答した秋田県の「いぶりがっこ」の問題が取り上げられています。

HACCP(ハサップ)に適合した衛生管理が義務づけられたため、経過措置期間が過ぎる24年6月からはすべての中小事業者などが保健所の営業許可を必要とします。
この法改正は、2012年に発生した食中毒事件*1がきっかけであり、漬物製造業のガイドラインが改定されたものによります。各自治体は、補助制度を創設し、施設整備や機材購入費の助成を行っています。
ただし、生産者の高齢化や後継者不足の問題もあり、中長期的な対策が求められているというのが、今の中小事業者が直面しているリアルなHACCPの現状ではないでしょうか。

*1 2012年に発生した食中毒事件

法改正のきっかけとなった食中毒事件。
この事件では、札幌市のあるメーカー(現在は廃業)が製造した白菜の浅漬けを摂取した女の子や高齢者施設の入居者など8人が亡くなりました。これを受けて、厚生労働省は2013年に漬物製造業の製造基準(ガイドライン)を全面的に見直し、2018年6月には漬物の製造販売が許可制となるよう法律が改正されました。

改正食品衛生法によってHACCPが導入されることは、食品安全管理の国際基準を満たすことで消費者に安心・安全な食品を提供する目的があります。これにより、食中毒や品質問題のリスクが低減され、食品産業全体の信頼性が向上することは間違いありません。

しかしながら、中小事業者や伝統的な食品生産者にとっては、HACCPの導入に伴うコストや手間が大きな負担となり、事業継続が困難になるケースも少なくありません。
特に、営業許可を取得できずに廃業を選択する事業者が増えることで、地域の伝統食品が失われる恐れがあります。

この問題に対処するためには、自治体や関連機関が適切な支援策を講じることが重要です。
具体的には、助成金や補助金の提供による経済的負担の軽減、専門家による技術支援やアドバイスの提供、共同作業場の整備によるインフラ整備などが挙げられるでしょう。

また、高齢化や後継者不足の問題に対しては、若手生産者の育成や支援、地域資源の活用、地域ブランドの創出や強化などの取り組みが求められます。地域産業としての競争力を高めることで、新たな市場の開拓や付加価値の向上が期待でき、後継者育成のインセンティブにもつながるからです。

HACCP導入によって得られるメリットを十分に活用することも大切です。
例えば、HACCP認証を取得した製品は、安全性や信頼性が高いとして消費者にアピールでき、輸出やプレミアム商品としての価値が向上する可能性があります。

法改正に伴うHACCP導入の利点と課題を正確に把握し、適切な支援策や情報提供を行うことで、伝統的な食品文化を守りながら、安全性と品質の向上に努めることが求められます。
また、消費者に対しても、HACCP認証を取得した製品の安全性や信頼性を理解し、適切な選択を行えるよう啓発活動や情報提供が重要です。

食品産業において、伝統的な食品と最新の食品衛生管理が共存することで、地域の特色や魅力を活かした持続可能な産業発展が期待できることから、地域の連携や協力体制の構築、人材育成や技術革新の取り組みなど、多面的なアプローチが重要となります。

最後に、国際基準に対応することで、日本の伝統的な食品が世界市場での競争力を持ち、グローバルに展開できる機会が増えるでしょう。これにより、日本の食文化がより多くの人々に広がり、新たな価値創造につながります。
つい先日お届けしたニュースもHACCPがあったからこそ実現できた素晴らしい取り組みです。
[ 参考 ]
ヨーロッパへの「日本産カキ(牡蠣)」の輸出とHACCPが果たした役割

食品衛生管理のプロとして、HACCPの導入を伴う課題と機会を見据え、地域や産業の発展に貢献できるよう、適切な支援や取り組みを展開していくことが大切です。
HACCPが本当の意味で根付くまではいろいろ大変な部分もあるとは思いますが、食品関連の中小事業者様にはこの変化に対応し、自社と食品産業の持続的な成長の力としていただければ嬉しく思います。