食中毒は誰にでも起こり得る問題です。この記事では、「食中毒 予防対策」について、食品衛生管理の専門家の視点から詳しく解説します。食中毒の原因から予防や対策、実際に起きてしまった食中毒の事例、あなたとあなたの大切な家族が食生活を安全なものに、そして食生活を楽しめるように食中毒のリスクや予防・対策の理解を深めましょう。

食中毒とは

食中毒とは、私たちが食べる食品に含まれる有害な物質や病原体を摂取することにより発生する病気のことを指します。これらの有害な物質や病原体は、食品の製造過程、保存方法、調理方法などにより食品に混入することがあります。食中毒は、腹痛や下痢、嘔吐などの消化器系の症状を主に引き起こしますが、重篤な場合には命に関わることもあります。そのため、食中毒の予防は日常生活における重要な課題となっています。

食中毒の統計

厚生労働省の食中毒統計資料を確認すると、令和4年の食中毒は、962件発生し、患者数6,856人、死者数5人となっています。内、原因となる食品または食事が特定できたのは、715件、6,532人、5人となっています。病因物質*1が特定できたのは、953件、6,754人、5人です。

*1 病因物質(びょういんぶっしつ)
食中毒の病因物質は、細菌、ウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫に大別されます。

原因食品別-食中毒発生状況

令和4年における原因食品別の食中毒発生状況は次のとおりです。

厚生労働省の食中毒統計から
出典:厚生労働省-4.食中毒統計-原因食品別

約40%が「魚介類」という結果に。

病因物質別-食中毒発生状況

病因物質別の食中毒発生状況は次のとおりです。

出典:厚生労働省-4.食中毒統計-病因物質別
出典:厚生労働省-4.食中毒統計-病因物質別

細菌かウイルスかとイメージしがちかもしれませんが、なんと食中毒の発生件数の内、約59%が寄生虫アニサキスによるものなのです。

食中毒の原因ってなに?

食中毒の原因ってなに?

食中毒の原因となる病原体や有害物質は多種多様で、それぞれ特有の特性や症状を持っています。以下に、主な食中毒の原因を紹介します。

細菌(雑菌)

食中毒の最も一般的な原因は細菌です。サルモネラ菌大腸菌カンピロバクターなどがよく知られています。これらの細菌は、食品の取り扱いや保存方法が不適切な場合に増殖し、食中毒を引き起こします。

ウイルス

ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスも食中毒の原因となります。これらのウイルスは、汚染された食品や水を摂取することで感染します。

動物性自然毒

一部の魚や貝などに含まれる毒素も食中毒の原因となります。フグ毒やシガテラ毒、貝毒などが該当します。これらの毒素は加熱しても分解されず、食べると中毒症状を引き起こします。

植物性自然毒

一部の植物に含まれる毒素も食中毒の原因となります。たとえば、キノコに含まれる毒素による食中毒があります。

化学物質

食品添加物の過剰摂取や、食品に含まれる農薬や重金属などの化学物質も食中毒の原因となることがあります。

寄生虫

アニサキスやエキノコックスなどの寄生虫も食中毒の原因となります。これらの寄生虫は、生肉や生魚を食べたときに感染することがあります。

その他

その他、食品の製造過程で混入する可能性のある異物なども食中毒の原因となることがあります。食品の安全な取り扱いと適切な保存方法が、食中毒予防の鍵となります。

食中毒かなと思ったらまず何をすべきか

食中毒の疑いがあるときは、早期に適切な対応をすることが重要です。そのためには、食中毒の初期症状や潜伏期間を理解しておくことが必要です。

初期症状、潜伏期間を知る

食中毒の初期症状は、摂取した食品や病原体の種類により異なりますが、一般的には吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが挙げられます。また、高熱や頭痛、全身の倦怠感などが伴うこともあります。
食中毒の潜伏期間も、原因となる病原体や摂取量、個々の体調などにより異なります。潜伏期間は原因となる病原体によって異なりますが、早くてセレウス菌による食中毒だと嘔吐型と呼ばれるもので30分、長いものだと腸管性出血性大腸菌(O157)で8日となります。ざっくり過ぎるかもしれませんが、平均的な潜伏期間(症状が現れるまでの時間)は6〜72時間と考えておけば広範囲の菌やウイルスの潜伏期間をカバーできます。
食中毒の疑いがある場合は、すぐに医療機関に連絡し、症状を詳しく伝えましょう。また、可能であれば、食中毒の疑いがある食品を残しておくと、原因究明に役立ちます。

食中毒の症状や治療、対応

食中毒になった場合、その症状や治療法、そして適切な対応方法を知ることは非常に重要です。それぞれの場合について詳しく見ていきましょう。

症状と治療

食中毒の症状は、原因となる病原体により異なりますが、一般的には吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが挙げられます。また、高熱や頭痛、全身の倦怠感などが伴うこともあります。重症化すると脱水症状を引き起こすこともありますので、早めの対応が求められます。
治療については、症状の程度や病原体の種類によりますが、基本的には体力を回復させ、脱水症状を防ぐための水分補給が重要となります。また、医療機関での診察を受け、適切な治療を受けることが必要です。

対応(お店、病院、保健所)

食中毒の疑いがある場合、まずは医療機関に連絡し、症状を詳しく伝えましょう。また、可能であれば、食中毒の疑いがある食品を残しておくと、原因究明に役立ちます。
食品衛生法では、医師が食中毒やその疑いがあると診断した場合、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが定められています。病院から連絡を受けた保健所は、ただちに患者への調査を開始すると同時に、食中毒の発生源と疑われる施設への立入調査を行うことになっています。ですから、お店や保健所への連絡はあなた自身が気にする必要はありません。

食中毒予防の3原則とは

食中毒予防の3原則とは

食中毒を予防するためには、3つの原則「つけない」「ふやさない」「やっつける」を日常生活の中で実践することが重要です。
これらの原則は、食品衛生の基本となる考え方であり、食中毒の発生を防ぐための具体的な行動指針を示しています。

食中毒予防3原則その①つけない=清潔

「つけない」は、食品や調理器具、手などに病原体をつけないという意味です。具体的には、手洗いや調理器具の清潔な管理、食材の適切な取り扱いなどが含まれます。これらの行動は、病原体が食品に付着することを防ぎ、食中毒の発生を予防します。

食中毒予防3原則その②ふやさない=迅速

「ふやさない」は、病原体が増殖するのを防ぐという意味です。食品は、特に温度管理が重要で、一般的には5℃以下または60℃以上の温度で保管することが推奨されます。これは、病原体が最も活発に増殖する「危険温度帯」を避けるためです。

食中毒予防3原則その③やっつける=加熱または冷却

「やっつける」は、病原体を無力化するという意味です。具体的には、食品を十分に加熱することで病原体を死滅させる、または冷却により病原体の活動を抑制することが含まれます。これらの行動は、食品に付着した病原体を無力化し、食中毒の発生を防ぐ効果があります。

食中毒の予防対策6つのポイント

食中毒の予防には、日常生活の中での様々なポイントが関わってきます。以下に、食中毒予防のための6つのポイントを詳しく説明します。

【厚生労働省】家庭でできる食中毒予防の6つのポイント

買い物〜購入時の注意点

消費期限を確認し、なるべく新鮮な食材を買いましょう。肉や魚はパックから水分が漏れないように(可能な限り)ビニール袋にそれぞれ分けて包みましょう。冷蔵や冷凍などの温度管理が必要な生鮮食品については最後にカゴに入れ、買い物後、長時間常温や日光にさらされることがないようになるべく早めに家に帰りましょう。
食品を買い物する際に使用するエコバッグは、食品に直接触れる可能性があるため、常に清潔に保つことが重要です。定期的に洗濯を行い、汚れや菌の繁殖を防ぎましょう。

保存〜家庭で保存するときに気をつけたいこと

食品の保存方法も食中毒予防に大きく関わります。冷蔵庫の温度は一般的に10℃以下、冷凍庫は-15℃以下が適切とされています。また、生鮮食品と調理済みの食品は分けて保存し、交差汚染を防ぐことが重要です。
細菌の多くは、10℃では増殖がゆっくりとなり、-15℃では増殖が停止しています。しかし、細菌が死ぬわけではありません。早めに使いきるようにしましょう。

下準備〜交差汚染を防ごう

食材の下準備時には、手洗いや調理器具の清潔な管理を心掛けましょう。また、生肉と他の食材は別々のまな板で切ったり、生肉をバシャバシャと流水洗浄せず、交差汚染を防ぐ工夫が必要です。

鶏肉を流水洗浄したあと
画像:鶏肉を流水洗浄すると菌やウイルスが飛散する例

調理〜最大のポイントといっても過言ではありません

調理時には、食材を十分に加熱することで病原体を死滅させることが重要です。特に肉類は中までしっかりと火を通すことが求められます。目安は、中心部の温度が75℃で1分間以上加熱することです。熱の伝わりにくいものはときどきかき混ぜて均等に熱を加えるのが食中毒の予防対策という観点では重要になります。
電子レンジは過信せず、加熱ムラによる食中毒リスクには十分注意しましょう。

食事〜清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器で

食事時には、手洗いを忘れずに行いましょう。また、食事は早めに終え、食品が室温で放置される時間をなるべく短くすることが重要です。「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」こうすることで、おいしく食べられるだけではなく、実は食中毒の予防対策にもなるのです。目安は、温かい料理は65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下です。

残った食品〜早めに冷蔵保存

食事後の残り物は、早めに冷蔵庫で保存しましょう。また、再度食べる際には、しっかりと加熱することで、食中毒のリスクを下げることができます。

特に食中毒に注意したい時期とその理由

食中毒は年間を通じて発生しますが、特定の時期に発生しやすい傾向があります。その理由と注意すべき時期について説明します。

6月〜8月と11月〜3月は特に注意!?

食中毒の発生は、気温や湿度などの環境条件に大きく影響されます。特に、6月から8月の夏季は、高温多湿の環境が食品の劣化を早め、食中毒菌の増殖を促進します。この時期は、食品の取り扱いに特に注意が必要です。
一方、11月から3月の冬季も注意が必要な時期です。この時期は、ノロウイルスによる食中毒が多く発生します。ノロウイルスは、人間の手や調理器具などを介して食品に付着し、感染を広げます。また、寒い時期は室内での活動が増え、密閉された空間での感染リスクも高まります。
これらの時期は、食品の取り扱いや衛生管理に特に注意を払い、食中毒の予防に努めることが重要です。

特に食中毒に注意したいシーン

食中毒は、さまざまなシーンで発生する可能性があります。特に注意が必要なシーンをいくつか挙げてみましょう。

フードデリバリーの利用者が増加しています

フードデリバリーの利用者が増加しています
出典:日本ネット経済新聞

最近では、デリバリーサービスの利用が増えています。便利な一方で、食品の衛生管理に問題があると食中毒のリスクが高まります。デリバリーの食品は、調理から配達までの時間や温度管理がより重要になりますが、その管理がお店と配達員に依存し、またその部分を見ることができません。それを言い出せば、フードデリバリーを利用することができなくなってしまいますが、例えば、配達された食品がきれいな状態で届いているかなどから、その管理体制を少しは窺い知ることができるでしょう。配達後の食品の取り扱いも重要で、すぐに食べられない場合は適切な温度で保存しましょう。

バーベキューやピクニックでの食中毒にご注意ください

バーベキューやピクニックでの食中毒にご注意ください

アウトドアでの食事も、食中毒のリスクがあります。バーベキューやピクニックでは、食品の保存や調理環境が適切でない場合があります。特に、生肉や生魚を扱う場合は十分な加熱が必要です。また、食品を長時間放置したり、冷蔵が不十分な場合も食中毒の原因となります。アウトドアでの食事は楽しいですが「自宅の食事より何倍も食中毒リスクが高くなるから十分に気をつけよう」という意識を持ち、食品の取り扱いには十分注意し、楽しい時間を過ごせるようにしてください。

実際にあった食中毒の事例

食中毒の事例を3つご紹介します。これらの事例は、食品衛生管理の重要性を示すものであり、私たちが日々の生活でどのように注意を払うべきかを示しています。

まず1つ目の事例は、2023年2月に発生した幼稚園児など280人余りのノロウイルスによる集団食中毒です。福岡市の調理会社が作った弁当を食べた幼稚園児など280人余りが下痢などの症状を訴えました。調査の結果、市はノロウイルスによる集団食中毒と断定し、調理会社を営業禁止処分にしました。
出典:NHK-https://www3.nhk.or.jp/fukuoka-news/20230214/5010019236.html

2つ目の事例は、2015年7月、山形県東根市で開かれたイベントで、参加者が腹痛や下痢を訴える食中毒が発生。原因は、イベント内で行われた流しそうめんだった。食中毒を引き起こしたのは、そうめんを流すために使った沢水で、同県食品安全衛生課の調べによると、沢水と症状を訴えた者の便から病原性大腸菌が検出された。沢水は冷たく透明度も高く、とてもきれいなイメージを抱くかもしれませんが、細菌やウイルスに汚染されていることは想定しなければなりません。
出典:J CASTニュース-https://www.j-cast.com/2015/07/27241161.html

3つ目の事例は、2022年10月、千葉県八千代市の市立高津南保育園で給食を食べた園児や職員計28人が下痢などの症状を訴え、そのうち16人から食中毒菌のカンピロバクターが検出されたと発表した。千葉県庁県によると、園児らは10月20日、鶏肉を使ったミートローフなどを食べ、22日夜から5~6歳の園児15人と24~60歳の職員13人が下痢や発熱の症状を訴えた。習志野保健所は11月2日から3日間、給食施設に対し食事の提供を停止する処分にした。
出典:千葉日報-https://www.chibanippo.co.jp/news/national/993738

4つ目の事例は、2023年5月、大阪府堺市の「堺平成病院」の職員食堂で食事をした職員ら72人(21~81歳)が下痢や腹痛などの症状を訴えた集団食中毒で、このうち18人からウエルシュ菌が検出されたことがわかりました。1月には、富山県射水市の民宿で提供されたカレーを食べた12人が腹痛などの症状を訴え、ウエルシュ菌が原因だったことがわかっています。 ※ウエルシュ菌は100度で4時間熱しても死滅しない熱に強い菌
出典:チューリップテレビ-https://newsdig.tbs.co.jp/articles/tut/488586?display=1

最後、5つ目の事例として、大規模食中毒の事例をご紹介します。
2014年1月、静岡県浜松市内の小学校において摂取者数8,027名、患者数1,271名の大規模食中毒が発生した。原因食品は、14日に学校給食で提供された食パンと断定され、病因物質としてノロウイルスGIIが検出された。
出典:国立感染症研究所-https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2297-related-articles/related-articles-413/4798-dj4131.html

これらの事例から、食品衛生管理の重要性が明らかになります。食品を扱うすべての場所で、適切な衛生管理が行われていなければ、大規模な食中毒を引き起こす可能性があります。私たち一人一人が、食品衛生に対する意識を高め、日々の生活で適切な食品取扱いを心掛けることが重要です。

家庭にも取り入れよう!HACCP(ハサップ)

HACCP(ハサップ)とは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略で、食品の安全管理における国際的な基準の一つです。食品製造過程での危害要因を分析し、それらを管理する重要なポイントを特定するという手法です。食品製造業界では広く採用されていますが、家庭でも取り入れることで、食中毒の予防に大いに役立ちます。

HACCPの基本的な考え方は、食品を安全にするためには、製造過程全体を通じて安全管理を行うことが重要であるというものです。具体的には、食材の選び方、保存方法、調理方法など、食事を作る過程全体で食中毒のリスクを考え、それを最小限に抑えるための対策を立てます。
例えば、肉や魚を調理する際には、十分な加熱が必要であり、調理後の食品は適切な温度で保存することが重要です。これらはHACCPの考え方を取り入れた具体的な行動です。

家庭での食事作りも、一種の食品製造過程と言えます。その過程でHACCPの考え方を取り入れることで、家庭での食中毒を予防することができます。食品衛生は、私たち一人一人の生活の中で大切にすべきことです。HACCPを理解し、日々の食事作りに活かすことで、より安全な食生活を送ることができます。

食中毒に関するよくある質問

食中毒については、多くの疑問があります。以下に、よくある質問とその回答をまとめてみました。

食中毒の主な原因は何ですか?

食中毒の主な原因は、食品に含まれる細菌やウイルス、その毒素です。特に、サルモネラ菌や大腸菌、ノロウイルスなどがよく知られています。

食中毒の症状はどのようなものですか?

食中毒の症状は、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛が「食中毒4大症状」とされています。その他にも発熱や重症化すると脱水症状を引き起こすこともあります。

食中毒はどのくらいの期間で発症しますか?

食中毒の発症期間は、原因となる菌やウイルスの種類によりますが、一般的には数時間から数日です。

食中毒の予防方法は何ですか?

食中毒の予防には、食品の適切な保存と調理、手洗いの徹底などが重要です。

食中毒になったらどうすればいいですか?

食中毒になったら、まずは十分な水分と塩分を摂取し、体調が悪い場合は医療機関を受診してください。

食中毒と食物アレルギーの違いは何ですか?

食中毒は食品に含まれる細菌やウイルスが原因ですが、食物アレルギーは特定の食品に対する体の過剰な反応が原因です。

食中毒の発生が多い季節はいつですか?

食中毒の発生が多い季節は、6〜8月→11〜3月が食中毒発生件数が毎年増加する期間となっています。

食中毒は人から人へうつりますか?

通常、人から人へ直接うつることはありませんが、腸管出血性大腸菌O157、赤痢菌、ノロウイルスなどは別です。腸管出血性大腸菌O157、赤痢菌、ノロウイルスなどは非常に感染力が強いため、人から人へ感染することがあります。