腸管出血性大腸菌をはじめとする様々な腸管病原性大腸菌について、その原因や感染源、症状、治療法、予防法まで、包括的に解説していく特集記事です。
腸管出血性大腸菌(通称O157)をはじめ、腸管侵襲性大腸菌(EIEC)、腸管毒素産生性大腸菌(ETEC)、腸粘膜付着性大腸菌(EAEC)、腸管病原性大腸菌(EPEC)など、これらの病原体がどのような感染経路で私たちの身体に影響を与えるのか、感染力や症状、具体的な事例を通してわかりやすく解説します。
また、自分や家族が感染した場合の対処法や予防策についても詳しく紹介し、最後には役立つQ&Aをまとめています。
この記事を通して、腸管病原性大腸菌に関する知識を身につけ、健康で安全な生活を送るための一助としてください。

腸管出血性大腸菌とは

大腸菌がヒトの下痢症の原因となることを始めて報告したのは、1927年のAdam(アダム)が最初*1と考えられています。
腸管病原性大腸菌(E. coli)にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴や症状を引き起こします。
病原大腸菌の以下に、主要な腸管病原性大腸菌の種類を説明します。

*1 疫痢症状を呈した患者より分離した一大腸菌について(https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi1926/31/3/31_3_169/_pdf)

腸管出血性大腸菌 (EHEC)

腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素(志賀毒素群毒素)を産生し、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な合併症を引き起こすことが特徴です。代表的な血清型はO157で、他にもO26、O111などがあります。

腸管侵襲性大腸菌 (EIEC)

腸管侵襲性大腸菌は、ベロ毒素を産生せず、腸管上皮細胞に侵入して炎症を引き起こします。症状は赤痢菌に似ており、下痢や腹痛、発熱などが見られます。

腸管毒素産生性大腸菌 (ETEC)

腸管毒素産生性大腸菌は、熱耐性および熱感受性のエンテロトキシンを産生し、主に水様性の下痢を引き起こします。
通常、食中毒や旅行者下痢の原因となります。

腸粘膜付着性大腸菌 (EAEC)

腸粘膜付着性大腸菌は、腸の粘膜に強く付着し、炎症を引き起こすことで下痢を引き起こします。
乳幼児や免疫力の低い人々に感染が多いとされています。

腸管病原性大腸菌 (EPEC)

腸管病原性大腸菌は、ベロ毒素を産生せず、腸管上皮細胞に侵入して炎症を引き起こします。
乳幼児の下痢症の原因となることが多く、発展途上国での児童死亡率に影響を与えることがあります。

腸管出血性大腸菌の原因

菌に汚染された飲食物を摂取するか、患者の糞便で汚染されたものを口にすることで感染します。

感染源と感染経路

飲食物を介する経口感染がほとんどであることを覚えておきましょう。
腸管出血性大腸菌感染症の場合、感染源はベロ毒素を産生する大腸菌です*2
生肉や加熱不十分な食肉、汚染された野菜や果物、生水などが感染源となることが多いです。
感染経路は、主に食品や水を介して感染が拡大します。

腸管出血性大腸菌は、家畜や人の腸内に存在する大腸菌の一種で、ほとんどのものは無害ですが、その中のいくつかは人に下痢や消化器症状、合併症を引き起こす病原大腸菌です*3。腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素と呼ばれる毒素を産生し、これが腸や腎臓の細胞にダメージを与え、下痢、血便、腎不全などの症状を引き起こします。
この毒素が感染源となり、感染症を引き起こすことが主な原因となります。

*2 MEDLEY-腸管出血性大腸菌感染症(https://medley.life/diseases/550578d86ef4585d3a85d0df/)
*3 厚生労働省-腸管出血性大腸菌Q&A(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html)

感染力

O157は非常に感染力が高いです。
通常の細菌性食中毒で感染するためには100万個単位の細菌を摂取する必要があるのに対して、O157の場合はわずか100個ほどの菌の摂取で発症すると言われています。

感染経路やシーン・事例

感染シーンや事例としては、焼肉店や飲食店で提供される生肉や加熱不十分な食肉を食べることで感染が起こることがあります。また、食肉販売業者が提供する食肉も感染源となることがあり、ヒトからヒトへの二次感染も問題となることがあります。

感染対策においては、これらの要因のうち一つでも取り除くことが重要です。
特に、「感染経路の遮断」が感染拡大防止のために重要な対策です。
具体的には、食品を十分に加熱することや、生肉を避けること、手洗いなどの衛生管理を徹底することが感染リスクを低減できる方法です。

原因となる主な食品

腸管出血性大腸菌感染症の主な原因食品は、牛肉やその加工品、サラダ、白菜漬け、井戸水などが挙げられ、その範囲は非常に広範囲です。
牛などの家畜が保菌している場合があり、これらの糞便に汚染された食肉からの二次汚染により、あらゆる食品が原因となる可能性があります。

腸管出血性大腸菌の潜伏期間と症状

潜伏期間

腸管出血性大腸菌(EHEC)の潜伏期間は、通常3~4日ですが、1~10日の範囲になることもあります。
潜伏期間とは、病原体にさらされてから症状が出るまでの期間のことです。 この期間中、感染者は症状がなくても、病原体を他の人に感染させる可能性があることに注意して下さい。

主な症状

症状は成人・子どもともに、症状が現れると、通常、腹痛、下痢(血液を含む場合もある)、吐き気、嘔吐、発熱が見られます。
全く症状がない(無症状)ものから軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便(すいようべん/水のような便)、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こすケースもあります。

致死率や死亡事例

O157による感染症の致死率は、症状の重篤さや治療が遅れることなどにより変わりますが、一般的に約1%〜5%と言われています。
ただし、高齢者や免疫力が低下している人、さらに合併症が発生した場合などはリスクが高まります。
感染症に罹患した際には、速やかに医療機関を受診することが重要です。

-事例(死亡事例)
2022年、京都府内の食料品店で調理販売した「ローストビーフ」及び「レアステーキ」を喫食した9歳から90代の23名(9月15日時点)が食中毒を発症し、うち1名が亡くなった*4
*4 鳥取市-腸管出血性大腸菌(O157等)による食中毒にご注意ください。(https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1623108923156/index.html)

-事例(死亡事例)
1996年、堺市内の小学校において、学校給食が原因と見られるO157の集団食中毒事件が発生した。医療機関で診療を受けた患者数12,680名、確定診断された患者数は9,523名に達し、加えて大量の二次感染者が発生。感染した児童2名は死亡した。その後、厚生省(現:厚生労働省)の調査により、感染原因の究明には至らなかったものの、原因食材である可能性が否定できない食材としてカイワレ大根が公表された*5
*5 内閣府食品安全委員会-国内で発生した事故・事例を対象として食品安全に係る情報の収集と提供に関する調査報告書

-事例(死亡事例)
2003年4月、宮崎市において、腸管出血性大腸菌O157:H7 感染により、2名の姉弟が死亡するという事例が発生した
5歳の男児から腸管出血性大腸菌O157(Stx1&2産生)が検出され、6歳の姉も溶血性尿毒症症候群(HUS)の症状があった。4月12日に姉が死亡し、4月23日には弟も死亡した。調査をしたが家族の父、母、兄には症状が認められなかった。感染する可能性が高い期間に家族は一緒に食事をしていた。2人が通っていた保育園のその他の園児や職員に有症状者はいなかった。弟と姉、及び兄の3人は感染する可能性が高い期間中に、郊外の親戚の家に1泊していた。保健所において、患者家族3名および患者らが宿泊した親戚宅の2名の接触者検便を行った。その結果、患者家族からO157は検出されなかった。親戚の家では、4頭の牛を飼養しており、患者ら2名だけが牛舎横斜面下でどろんこ遊びをしていたことが判明したため、牛の糞2検体、地面に溜まった泥水(どろんこ遊びに使っていた)2検体の検査を、保健所および当所で実施した。その結果、牛の糞からはOUT:HNM (Stx1, eaeA +)、OUT:H21 (Stx2, eaeA -)、O126:HUT (Stx1, eaeA -)、泥水からはO157:H7 (Stx1&2, eaeA +)、OUT:HUT (Stx1, eaeA +)が検出された*6
*6 国立感染症研究所-感染症情報センター腸管出血性大腸菌O157:H7による死亡事例-宮崎県(https://idsc.niid.go.jp/iasr/25/292/dj2924.html)

-事例
2022年、前橋市の保育園の園児9人から腸管出血性大腸菌、O157が検出された。その1日後には医療機関から別の園児1人が入院したとの連絡もあり、この園児と一緒にプールに入ったり、食事をしたりした園児の検査を行ったところ、すでに感染が確認されていた園児を含め、あわせて9人の陽性が確認されました。入院していた園児もいたが、その後退院し全快*7
*7 NHK-保育園の園児9人がO157に感染 前橋(https://www3.nhk.or.jp/lnews/maebashi/20220727/1060012561.html)

自分や家族にその症状がみられたら

激しい腹痛や激しい下痢(特に血便)があった場合は、すぐにかかりつけの医師の診察を受けましょう。
また、症状がある場合は、調理を行わないようにしましょう。

腸管出血性大腸菌の治療

腸管出血性大腸菌感染症の主要な治療法は対症療法が中心です。
整腸剤、水分の補充、安静がすすめられます。
感染症は細菌そのものではなく、毒素が原因であるため、抗菌薬の使用には効果が認められません。
ただし、合併症であるHUS(溶血性尿毒症症候群)の予防策として抗菌薬の使用が支持される見解も存在しますが、逆に病状を悪化させるリスクも指摘されています。
具体的な治療法については、医師の指示に従うことが重要です。

腸管出血性大腸菌の予防

腸管出血性大腸菌の予防方法には以下のようなものがあります。

  1. 食品の安全な取り扱い: 生肉や野菜を十分に加熱して調理し、生食品と加熱調理済みの食品を別々に扱うことで、食品の二次汚染を防ぎます。
  2. 手洗い: トイレ使用後や料理前、食事前などには、石鹸を使って手をしっかりと洗いましょう。特に指の間や爪の周りを念入りに洗うことが重要です。
  3. 飲料水の衛生管理: 井戸水や不明な水源からの水は避け、安全な水道水やペットボトルの水を利用しましょう。

消費者としては、生食品を避けることが大きな予防策となります。
特に、生ステーキ、レアハンバーグ、ユッケなど、これらの食品を原因とした感染事例は枚挙にいとまがありません。
腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅するため*8、よく加熱して調理された料理を食べるようにして下さい。
これらの予防方法に注意して、感染リスクを大幅に低減させることができます。

*8 厚生労働省-腸管出血性大腸菌O157等による食中毒(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/daichoukin.html)

腸管出血性大腸菌(通称O157)の役立つQ&A

O157とノロウイルスは違いますか?

O157とノロウイルスは、どちらも食中毒を引き起こす病原体ですが、異なるタイプの病原体です。 O157は、大腸菌O157という細菌の一種が生成する毒素が原因で起こる食中毒です。生の肉や生乳製品、野菜などにO157が存在することがあります。O157に感染すると、下痢や腹痛、嘔吐などの症状が出ることがあります。さらに、溶血性尿毒症症候群(HUS)という合併症が発生することもあります。 一方で、ノロウイルスは人間に感染するウイルスで、主に食べ物や飲み物を介して感染します。下痢や吐き気、腹痛、発熱などの症状が出ることがあります。ノロウイルスは冬の時期に流行しやすく、特に集団での感染が起こりやすいとされています。 つまり、O157は細菌による食中毒であり、ノロウイルスはウイルスによる食中毒で、原因や症状が異なる点が特徴的です。

食中毒と感染症の区別は?

同じ菌やウイルスが原因でも飲食物によって発生するときは食中毒、人から伝染するときは感染症と区別されます。

O157にアルコールは有効ですか?

アルコールがほとんど効かない(まったく効かないわけではない)ノロウイルスとは異なり、O157の場合、アルコールに接した部分に関していえば容易に死滅させることができます。そういう意味ではアルコールによる手指消毒はもちろん有効です。しかし、O157は「菌に汚染された飲食物を摂取するか、患者の糞便で汚染されたものを口にすることで感染する」わけですから、手指衛生の問題ではないことがわかります。そういう意味では、O157はその大部分でアルコールで防ぐことはできないと考えるべきでしょう。

O157は人にうつりますか?

はい。感染者は症状がなくても、病原体を他の人に感染させる可能性があることに注意して下さい。

腸管出血性大腸菌による食中毒は、これまでどのくらい発生しているの?

過去10年間の腸管出血性大腸菌による食中毒の発生は、年間約10~30件、患者数は100~1,000人程度で推移しております*9。平成28年には、共通の食品が原因で10人が亡くなるなどの死亡事例も発生しました。食中毒患者数が感染症法に基づく報告数よりも少ない理由として、人対人感染があることや、単独の患者の場合、感染原因の特定が困難で食品を介した感染と判断されるケースが少ないことなどが挙げられます。

*9 厚生労働省-腸管出血性大腸菌による食中毒事例はこれまでどのくらい発生があったのですか?(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html)

まとめ

この特集記事を通じて、腸管出血性大腸菌やその他の腸管病原性大腸菌に関する知識を深めることができたでしょうか。
感染源や感染経路、症状、治療法、予防法について理解し、日常生活に活かすことが大切です。
周囲の人々とともに、健康で安全な生活を送るために、正しい知識と対策を実践しましょう。
また、症状が出た際には適切な医療機関を受診し、早期治療を行うことが重要です。
腸管病原性大腸菌に関する情報は常にアップデートされるため、最新情報を確認したら当サイトでも適宜更新してお知らせいたします。
この記事が、皆さんの健康維持にお役立ていただければ幸いです。