食品業界では、2021年6月以降、義務化されたHACCPによって「見える化」という言葉を以前にも増して耳にする機会が増えました。
そこで、この「残留タンパク質検査」でも「汚れを見える化」できるらしいが、それが食品衛生管理においてどのように役立つのか。他のもっと精度が高い検査方法がある中で、そもそも残留タンパク質検査の意義はどこにあるのか。
そのようにお考えの人に対して、本記事では残留タンパク質検査のことを詳しく解説します。

汚れを見える化する「残留タンパク質検査」とは

残留タンパク質検査とは、その名の通り、対象にタンパク質が残留しているかどうかを判断する検査です。
タンパク質が残留していることは何を意味するのか?

タンパク質が残留しているということを把握できれば、

①微生物の餌になりうるものが存在している
②アレルゲン物質が存在している

ということになり、その対策を講じることができます。

より簡単に言うと、「タンパク質が残留している」ということは「そこに菌が存在する」こととほぼ同義だということです。
一見きれいに見えるものであっても、タンパク質が残留していることが分かれば、それはつまり汚染しているということです。
「見えなかった汚れ」が「見える汚れ」になるという意味で、「見えない汚れを見える化する」というわけです。

残留タンパク質検査のやり方

多くの場合、スワブ(綿棒)と検査液が一体になっている残留タンパク質検査キットを利用して検査を行います。
スワブで対象を拭き取り、そのスワブを検査液に浸け、検査液やスワブの色の変化で残留タンパクの有無を判断します。
日本細菌検査という会社のスワブプロは検査キット1つあたり60円と低コストながらその利便性や品質の高さから累計納入数が80万キットを超える商品です。
一般的な残留タンパク質検査がどのようなものなのか、参考までに、スワブプロの使い方を説明する動画がありましたのでご紹介しておきます。

一般的な残留タンパク質検査のやり方

ATP検査ではダメなのか

汚れを見える化すると聞いて、ATP検査*1を想像する人も少なくないと思います。
ATP検査の真骨頂は、なんといっても「汚れを数値化できる」点にあります。
だったら、ATP検査のほうがいいではないかと聞こえてきそうですが、ATP検査には機器購入のイニシャルコストだけではなく、購入後も継続して試薬の購入というランニングコストが発生します。そしてこの試薬が高いというデメリットがあります。
試薬の費用が高いとどうなるのか。
これはもちろん、導入先すべてではありませんが、試薬の費用が高いと(一般的には)検査頻度が著しく低下する傾向があります。
試薬が高いから2回をまとめて1回にしようかな…
検査したい対象は2箇所だけど1箇所だけにしておこうかな…
→結果、ほとんど使わなくなってしまうなど。

ATP検査は汚れを数値化できる大変画期的な検査方法であり、衛生管理において多大な貢献をしていることは間違いありません。
しかし、メリットばかりではなく、そのようなデメリットが存在するということは覚えておきましょう。

*1 ATPふき取り検査(A3法)
生き物を含む多くの有機物に含まれるATP(アデノシン三リン酸)を汚れの指標とした検査方法。
管理したい場所の洗浄や清掃がきちんとできたかを、誰でも、簡単に、その場で測定でき、その結果を数値で得ることができます。

残留タンパク質検査の意義はどこにあるのか

食品業界においてもっともメジャーな検査方法といっても過言ではない微生物検査と残留タンパク質検査を比べてみましょう。
「コストを度外視するなら微生物検査のほうが絶対に精度が高いはず」と思われますか?
あなたがもしそう思われたなら、それは正しい理解ではありません。

残留タンパク質検査の意義はどこにあるのか

A:微生物検査・残留タンパク質検査ともに不合格
菌も洗い残し(食物残渣)も存在する状態。
この場合は、微生物検査・残留タンパク質検査ともに明確な不合格を示します。

B:菌はいないが洗い残しがある状態
菌はいないので微生物検査では合格となりますが、残留タンパク質検査では洗い残しが残留タンパク質として反応する可能性が高く、不合格を示します。
洗い残しがあると、殺菌や除菌効果も弱まり、短時間で菌は増殖します。

C:菌も洗い残しもない状態
菌も洗い残しもないため、微生物検査・残留タンパク質検査ともに合格を示します。

注目すべきはBなのですが、残留タンパク質検査では、微生物検査では把握できない潜在的なリスクを知ることができます。
そして先にも紹介した検査キットのように、残留タンパク質検査を実施する場合、1回あたり数十円から数百円という安さです(だから検査頻度も低下しづらい)。

汚れを見える化できる。
費用が安い。
使い方が簡単である。
微生物検査では把握できない潜在的なリスクを知ることができる。

これらが残留タンパク質検査の意義であるとお考えいただければと思います。

残留タンパク質検査はどのようなシーンで使われていますか?

食品が直接触れる場所や、ヒトの手や器具などを介して汚染の恐れのある場所が検査対象となります。
レストラン、居酒屋、弁当屋、食品工場など、食品を取り扱う施設、調理をする施設などでスワブ式の残留タンパク質検査(キット)は利用されています。
検査対象は、まな板、包丁、調理用バット、ホテルパン、容器類、調理器具類、調理台、調理ライン、製造ラインなど、さまざまです。

ATP検査、微生物検査、残留タンパク質検査の比較

先ほどは、ATP検査には試薬が高いというデメリットがあるとお伝えしましたが、1つのデメリットだけを挙げ、ATP検査という実に画期的な検査方法を勘違いされることは当サイトとしても好ましくありません。
何より、物事にはメリットがあればデメリットもあります。
公平性という観点から、またどの検査方法を採用しようか検討中の方がご自身に合った正しい判断をしやすいように、ATP検査、微生物検査、残留タンパク質検査の比較表をここに示します。

検査種類ATP検査微生物検査残留タンパク質検査
どんな検査?該当箇所の洗浄評価を数値化する検査。
生物の体内に存在するアデノシン三リン酸を検出する方法で、迅速に結果が出ることが利点。
希釈液入りスワブを活用し微生物を採取し、培地を活用語に判定。スワブを使用する環境検査。
汚れ(タンパク)が残っているかどうかを瞬時に判断できる。
特徴汚れを数値化できる。
定期的な試薬購入費用が高い。
微生物そのものを検出しているわけではないため、結果はあくまでも目安として利用する。
この中ではもっともコストはかかるが、もっとも広範囲かつ正確性が高い。誰でも簡単に検査が可能。
超低コスト。
金銭的・時間的コストが低いため導入後の使用頻度は低下しない傾向がある。
菌の種類わからないわかるわからない
検査技術の習得不要不要
イニシャルコスト機器の購入機器の購入が必要1キット60円〜数百円
ランニングコスト試薬の購入検査に必要なさまざまな機器や消耗品が必要不要
HACCPに準じた管理可能可能可能

各検査方法のメリットとデメリットを考慮したうえで、正しい判断をされて下さい。

残留タンパク質検査の意義と、他の検査方法について説明しましたが、この記事があなたのお役に立てば幸いです。