食品における自主回収(リコール)は、消費者の安全と信頼を守るための重要なプロセスです。
ジョンソンアンドジョンソンの信条「トラブルが起こったら直ちに正直にデータを公開し、メディアを責任追及で攻撃してくる敵ではなく、事故を報道することで回収を手伝ってもらえるパートナーとみなす」が示すように、危機に対する迅速かつ適切な対応が求められます。
本記事では、自主回収に詳しくない食品従事者・事業者様に適切な判断をしていただきたいという想いから、自主回収に関する正しい情報や判断基準、費用目安などをひと通り解説したのち、最後に「自主回収の流れ」を説明しています。

自主回収と回収命令

回収には企業側が自主的に回収する「自主回収」と行政命令による「回収命令」の2つがあります。
件数的にみると、行政命令による回収よりも、自主回収の方が圧倒的に多いです。

自主回収とは

自主回収とは、製品やサービスに欠陥があることが判明した場合、メーカー・販売業者が消費者に対して、自主的に製品の回収・修理・交換などを行うことを指します。
製品に何らかの問題があることが判明した場合、企業が自らの意思で製品を回収し、消費者に対して返金や代替品の提供などの対応を行う制度です。
この制度の目的は、消費者の安全や健康を守ることにあります。
また、企業の信頼回復やブランドイメージの維持にも繋がります。
自主回収自体は、法律で義務付けられたものではありませんが、企業が社会的責任を果たすために実施されます。
自主回収が適切に行われることで、消費者への迅速な対応が可能となり、企業と消費者の双方にメリットが生まれる制度といえます。
自主回収自体は、法律で義務付けられるものではありませんが、令和3年6月1日から「食品等の自主回収を行った場合」は届け出することが義務化されました。

回収命令とは

食品回収命令とは、食品に問題がある場合に、食品メーカーが自主的に行う回収に対し、回収の対象となる食品が危険であると判断され、国が法的に強制力を持って命令することを指します。
具体的には、食品安全基本法に基づき、厚生労働大臣が食品回収命令を発令することがあります。
これにより、食品メーカーは回収を行わなければならず、消費者に対して回収の情報を公表することが義務付けられます。
食品回収命令は、食品の安全性を確保するために必要な措置の一つであり、重大な食品事故の発生を未然に防ぐことが目的となっています。

自主回収を判断するための4つの基準

自主回収を実施するかどうかの判断基準は、企業ごとに異なりますが、一般的には以下のような要素が考慮されます。

  1. 製品の安全性
    製品に欠陥がある場合や、利用者に対して健康被害が発生するおそれがある場合は、自主回収を検討することが重要です。
  2. 法令違反
    製品が法令に違反している場合や、違反の可能性が高い場合も、自主回収を実施することが求められます。
  3. 消費者のクレーム
    多くの消費者からクレームが寄せられた場合や、同一の問題を指摘する声が多い場合は、自主回収を検討する必要があります。
  4. 企業の社会的責任
    企業が社会的責任を果たすために、製品の問題を迅速に対処し、信頼回復に努めることが求められます。

これら4つの判断材料をもとに考えた結果、「自主回収しない」という結論に行き着くこともあります。いついかなるときも回収が善であるというわけではありません。
例えば、ある食品に何らかの軽微な問題が発覚したが、単品不良であることが明らかな場合などがそれにあたります。
※ここ数年では、そのような軽微な食品事故や問題であっても、回収という選択をする企業が増えてきています。

自主回収にかかる費用

自主回収には、さまざまなコストが発生します。
以下では、自主回収時にかかる費用と回収後にかかる可能性が高いコストについて解説します。

自主回収時にかかる6つの費用

  1. 取引企業、店舗への商品回収費用
    自主回収が決定された場合、取引先企業や店舗から製品を回収するための費用が発生します。これには、運送費や人件費などが含まれます。
  2. 購入者への告知のための費用
    消費者に自主回収の情報を伝えるための費用が必要です。これには、ウェブサイトやSNSでの告知、直接連絡する際の通信費などが含まれます。
  3. 新聞での告知費用
    自主回収を広く知らせるために、新聞などのマスメディアで告知を行うことがあります。その際の広告料が費用として発生します。地方新聞で40万円〜、全国紙だと400万円〜が目安になります。
  4. 購入者からの返品にかかる費用
    消費者が製品を返品する際の送料や返品手続きにかかる費用が発生します。これには、運送費や手数料が含まれます。
  5. 回収した製品の廃棄費用
    回収した製品を適切に廃棄するための費用が必要です。これには、廃棄処理費や処分場への搬送費などが含まれます。
  6. 購入代金の返金、代替品の発送にかかる費用
    消費者に購入代金を返金するための費用や、代替品を発送する際の費用が発生します。これには、振込手数料や運送費が含まれます。

回収後にかかる可能性が高い3つの費用

  • 再発防止のための費用
    自主回収の原因を究明し、再発を防ぐために品質管理体制の見直しや改善策の実施が必要です。これには、設備投資や研修費用がかかります。
  • クレーム対応費用
    自主回収によって、消費者からのクレームが増えることが予想されます。クレーム対応にかかる費用として、専門スタッフの人件費や、クレーム対応に必要な通信費、文書作成費用などが発生します。また、クレーム対応を円滑に行うための研修費用も考慮する必要があります。
  • 訴訟・損害賠償費用
    自主回収に伴い、消費者から訴訟が起こされることがあります。その際には、弁護士費用や裁判費用、損害賠償金が発生します。企業は、これらのコストも自主回収の際に考慮する必要があります。

自主回収の流れ

自主回収の流れは概ね次のとおりです。

STEP1
STEP1-食品等に関わる事業者

1.食品衛生法違反やその可能性、またはアレルゲンなどの安全性に関する食品表示法違反を確認し、自主回収(リコール)を開始します。
2.食品衛生申請等システムに入力し、届け出を行います。

STEP2
STEP2-最寄りの保健福祉事務所等

3.健康被害発生を考慮したクラス分類を実施します。
4.リコール情報を厚生労働省と消費者庁に報告します。

STEP3
STEP3-厚生労働省と消費者庁

5.全国のリコール情報を一元管理します。
6.食品衛生申請等システムを通じて、自主回収対象の食品の商品名、回収理由、予想される健康被害などの情報を公開します。

STEP4
STEP4-消費者

7.食品衛生申請等システムから、自主回収対象の食品の商品名、回収理由、予想される健康被害などの情報を確認できます。

届け出内容

届出内容は以下のとおりです。

  • 営業者の氏名及び住所(法人にあっては、その名称及び主たる事務所の所在地)
  • 営業者が回収の事務を他の者に指示し、又は委託した場合には当該者の氏名及び住所(法人にあっては、その名称及び主たる事務所の所在地)
  • 当該食品等の商品名及び一般的な名称、当該食品等に関する表示の内容その他当該食品等を特定するために必要な事項
  • 当該食品等が食品衛生法第58条第1項各号のいずれか又は食品表示法第10条の2第1項に該当すると判断した理由
  • 当該食品等の回収に着手した時点において判明している販売先、販売先ごとの販売日及び販売数量
  • 当該食品等の回収に着手した年月日
  • 当該食品等の回収の方法
  • 当該食品等が飲食の用に供されたことに起因する食品衛生上の危害の発生の有無

もっとも良くないのは、出荷した商品に異常があったことがわかり、「まだ1件しかクレームがない」と軽視して、原因追求すらしないケースです。そのような姿勢はいつか必ず大きな食品事故を引き起こします。
工場やお店、会社のことよりも、お客様の安全を第一に考えての行動が大切なのは言うまでもありません。
それ自体をみたときには軽微な事故かもしれませんが、その軽微な事故が原因による二次被害の可能性についても十分に留意して自主回収の必要性を判断するようにしましょう。