食中毒の発生件数第1位はアニサキスによるものですが、2位がこのカンピロバクターです。
食中毒の原因TOP3は、1.アニサキス 2.カンピロバクター 3.ノロウイルス となっており、この3つの原因で全体の約8割を占めます。

食中毒の発生原因(厚生労働省)

出典:厚生労働省

本記事では、カンピロバクターの正体から、食中毒の原因、症状、治療法、事例、そして家庭でできる予防対策まで、専門家の目線による解説とともに、知りたいことを全体的に網羅して徹底的にまとめました。
カンピロバクター食中毒に備え、あなたと家族の健康を守るための知識を手に入れましょう。

カンピロバクターとは

カンピロバクターは、世界で下痢症を起こす4大・原因疾患のうちの1つです*1
カンピロバクターは、らせん状に湾曲した形態を示すグラム陰性細菌の一群です。
この細菌は、カンピロバクター感染症と呼ばれる感染症を引き起こし、主に下痢や腹痛などの消化器症状が現れることがあります。
カンピロバクターは、鶏や豚、牛の腸内に生息しており、特に鶏肉の汚染率が高いため、食肉や加工品には注意が必要です。

*1 厚生労働省-カンピロバクター感染症 (ファクトシート)https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2018/02151322.html

カンピロバクターの分類

カンピロバクター属菌は2004年現在、17菌種6亜種3生物型から構成されています。
カンピロバクターは、細菌の一種で、主にC. jejuni(カンピロバクタージェジュニ)やC. coli(カンピロバクターコリ)が知られており、これらの細菌は、食中毒の原因となることがあります。
ただし、ヒトのカンピロバクター感染症は胃腸炎症状を主たる臨床像とし,その原因菌の95〜99 %はC. jejuniであり、C. coliは数%程度です*2

*2 NIID 国立感染症研究所-カンピロバクター感染症とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/385-campylobacter-intro.html)

写真:Campylobacter jejuni の電子顕微鏡像
出典:国立感染症研究所

カンピロバクター感染症の驚異としての位置づけ

カンピロバクターの感染症の驚異としての位置づけは、世界的にも感染症の脅威として認識されておりり、特に食品を通じた感染が多いため、食中毒の主要原因とされています。
国際的な取り組みが進められるほど、その影響は大きいです。
日本では、この疾患自体は、感染症法で規定されていませんが、感染性胃腸炎として5類感染症定点把握疾患に分類されています。
もし食中毒と診断された場合は、すぐに食品衛生法に基づき最寄りの保健所に届け出る必要があります。

カンピロバクターによる食中毒の統計及び発生率の推移

カンピロバクター食中毒の統計及び発生率の推移

出典:厚生労働省-カンピロバクター食中毒予防について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html)

事件数(件)患者数(人)死者数(人)
平成18 年41622970
平成19 年41623960
平成20 年50930710
平成21 年34522060
平成22 年36120920
平成23 年33623410
平成24 年26618340
平成25 年22715510
平成26 年30618930
平成27 年31820890
平成28年33932720
平成29年32023150
平成30年31919950
令和元年28619370
令和2年1829010
令和3年1547640
令和4年1858220

直近17年間の1年あたりの平均値は次のとおりです。

事件数患者数(人)死亡数(人)
3111,9870

ただし、これはあくまでも届け出があり、厚生労働省が認定または把握している件数になります。
実際にはこの何倍・何十倍の件数があるものと推察されます。
※厚生労働省以外の主要機関も含む全体の報告件数としては年間1万件を超えています。

カンピロバクターによる食中毒の原因

ここでは、カンピロバクター食中毒の感染源、感染経路、感染力、原因となる主な食品について触れていきます。

カンピロバクター食中毒の感染源と感染経路

ほとんどが、生食用鶏レバーや十分に加熱されていない鶏肉を摂取することが原因です。
カンピロバクターは、家畜や野生動物、特に家禽(鶏、鴨、七面鳥など)の腸内に生息しており、排泄物から食品や水に感染することがあります。
感染源としては、主に家禽からの感染が多いとされています。
感染経路としては、未加熱の肉や内臓、卵、生乳などの食品からの摂取、未処理の水からの摂取、接触感染が考えられます。
飲食物を介する経口感染が主体とされますが、日本感染症学会の報告によれば、まれに性感染症を感染経路とするケースもあるとのことです。

カンピロバクターの感染力

カンピロバクターの感染力は高く、数十個から数百個の細菌でも感染することができます。
感染量が少なくても発症する可能性がありますので、注意が必要です。

原因となる主な食品

カンピロバクター食中毒の原因となる主な食品は、未加熱の鶏肉や卵、生乳、野菜などです。
特に、生鶏肉を扱った後に他の食品に触れたり、肉や卵を十分に加熱しない調理が感染のリスクを高めます。

カンピロバクターによる食中毒の主な症状

一般的な症状以外にも、稀にギラン・バレー症候群の発症事例も報告されています。
潜伏期間、症状、事例などを知っておくことで万が一のとき役立つかもしれません。

潜伏期間

感染後2-7日程度の潜伏期を経て発症します*3
ただし、個人差があり、場合によっては1日から10日程度の幅があることが報告されています。
*3 日本感染症学会-Campylobacter enteritis(https://www.kansensho.or.jp/ref/d11.html)

症状

カンピロバクター食中毒の初期症状は、腹痛、下痢、発熱、頭痛、筋肉痛などが一般的です。
下痢は水様性で、時には粘血便や腹痛が強いこともあり、血便も珍しくありません。
発熱や頭痛は消化器症状に1-2日程度先行する場合があります。
症状の重篤さは個人差が大きく、軽度から重度までさまざまです。

致死率や死亡事例

先に説明した「カンピロバクターによる食中毒の統計及び発生率の推移」をみてもわかるとおり、カンピロバクター食中毒の致死率は、一般的に低いとされています。
少なくても厚生労働省が把握しているものに限っていえば、直近17年間でカンピロバクターによる食中毒を主な原因とする死亡事例はありません。
しかし、高齢者や免疫力が低下している人、持病を抱えている人の場合、合併症や重症化のリスクが高まります。
感染後の適切な治療が行われることで、ほとんどの場合は回復に向かいます。

手足の麻痺等を伴うギラン・バレー症候群の発症例あり

カンピロバクター食中毒が原因で、まれにギラン・バレー症候群(GBS)が発症することがあります。
GBSは、手足の麻痺や感覚異常が起こる神経疾患で、重症化すると呼吸麻痺や全身麻痺を引き起こす可能性があります。
カンピロバクター感染がGBS発症のリスクを高めるとされており、感染後1~3週間で症状が現れることが多いです。

カンピロバクター食中毒の治療

カンピロバクター食中毒の治療は、主に症状に応じた対症療法が行われます。
軽症の場合は、自宅での経過観察や水分補給、食事制限が推奨されます。
下痢がひどい場合は、脱水症状を防ぐために経口補水液の摂取が重要です。
重症化した場合や、高齢者、免疫力の低下している人、持病がある人は、抗菌薬の投与が検討されることがあります。
ただし、抗菌薬の使用は医師の判断によりますので、自己判断で服用しないよう注意しましょう。
症状が長引く場合や、合併症が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
適切な治療を受けることで、ほとんどの患者さんが回復に向かいます。

カンピロバクター食中毒の事例

これらの事例からも、カンピロバクターによる食中毒は、生食用鶏レバーや十分に加熱されていない鶏肉を摂取することが原因であることが再確認できます。
食材の適切な加熱や衛生管理を徹底することで、感染リスクを軽減することができます。

発生した年内容
2021長野県内の学校給食で、鶏肉を使用したメニューを摂取した児童のうち15名が、カンピロバクター食中毒の症状を訴えました。その後の調査で、鶏肉が適切な温度で加熱されていなかったことが判明しました。
2020神奈川県内の家庭で、鶏肉料理を食べた家族のうち3名がカンピロバクターによる食中毒に罹患しました。調査の結果、感染源とされる鶏肉が十分に加熱されていなかったことが判明しました。
2020東京都内で開催されたバーベキューイベントにおいて、参加者のうち30名以上がカンピロバクターによる食中毒に罹患しました。原因は、鶏肉が十分に加熱されていなかったことが挙げられています。
2019北海道内の飲食店で、生食用として提供された鶏レバーを食べた客が複数名、カンピロバクター食中毒に罹患しました。この事例を受けて、同店は生レバーの提供を自粛し、衛生管理の徹底を図りました。
2018岩手県内の家庭で、家庭内で調理した鶏肉料理を食べたメンバーのうち、4名がカンピロバクターによる食中毒に罹患しました。その後の調査で、感染源とされる鶏肉が十分に加熱されていなかったことが判明しました。
2017福岡県内の飲食店で、生食用として提供された鶏レバーを食べた客が複数名、カンピロバクター食中毒に罹患しました。これを受けて、県内の飲食店に対して生食用鶏レバーの提供を自粛するよう呼びかけが行われました。
2014兵庫県において、学校給食を摂取した児童ら約120人が腹痛や下痢の症状を訴えました。調査の結果、カンピロバクターが原因と判明し、鶏肉を使用したメニューが感染源とされました。

カンピロバクター食中毒の予防と対策

カンピロバクター食中毒を予防するためには、食品の取り扱いや調理法、衛生管理に注意することが重要です。
鶏肉が原因になることがほとんどですが、それ以外を原因とするケースもあることを知っておきましょう。
以下に具体的な予防策を挙げます。

  1. 鶏肉の加熱調理
    鶏肉はカンピロバクターの主な感染源です。十分な加熱が必要で、内部温度が75℃以上になるように調理しましょう。また、生レバーやレア焼きは避けることが望ましいです。
  2. 食品の分別
    生鶏肉と他の食材を別々のまな板や包丁で扱い、生鶏肉が触れた器具や調理台はすぐに洗って消毒しましょう。
  3. 手洗いの徹底
    鶏肉を扱った後や調理前、食事前には手をしっかり洗いましょう。特に、生鶏肉に触れた後は、石鹸を使って丁寧に手を洗いましょう。
  4. 生食用野菜の洗浄
    カンピロバクターは土壌にも存在するため、生食用の野菜はよく洗ってから食べましょう。
  5. 水道水の適切な管理
    水道水にカンピロバクターが混入することもあります。井戸水を利用する場合は定期的な水質検査を行い、必要に応じて浄水器を使用しましょう。
  6. ペットの衛生管理
    ペットもカンピロバクター感染のリスクがあります。ペットのフンを適切に処理し、ペットとの触れ合いの後は手洗いを忘れずに行いましょう。

カンピロバクター食中毒に関するよくある質問

自分や家族にカンピロバクター食中毒の症状がみられたらどうすればいいですか?

まずは水分補給を行い、休息をとりましょう。症状が重い、または改善しない場合は、速やかに医療機関を受診してください。

カンピロバクター食中毒は人にうつりますか?

カンピロバクター食中毒は、感染者の排泄物による二次感染があり得ます。しかし、適切な手洗いや衛生管理を行えば、人から人への感染は低リスクです。

カンピロバクター食中毒の症状は何日続く?

カンピロバクター食中毒の症状は通常、2~5日程度続きます。個人差がありますので、症状が長引く場合は医療機関を受診してください。

カンピロバクター食中毒はどうやってわかりますか?

カンピロバクター食中毒は、主に下痢や腹痛、発熱などの症状から疑われます。確定診断は便検査によって行われます。

鳥刺しを食べましたが食中毒にならないかと心配です。食中毒の症状はどのくらいで現れますか?

カンピロバクター食中毒の潜伏期間は、通常2~7日です。もし症状が現れた場合は、医療機関を受診してください。

カンピロバクター食中毒はどのくらい発生しているのですか?

カンピロバクター食中毒の発生率は国や地域によって異なりますが、日本では年間約1万件以上の報告があります。

カンピロバクターは何に弱い?

カンピロバクターは熱に弱く、特に内部温度が75℃以上になると死滅します。また、塩素にも弱いため、適切な濃度の塩素消毒が有効です。

カンピロバクターは何度で死ぬ?

カンピロバクターは、内部温度が75℃以上になると死滅します。加熱調理を十分に行うことで感染リスクを減らすことができます。

鶏肉のカンピロバクター汚染率は?

鶏肉のカンピロバクター汚染率は国や地域によって異なりますが、一部の報告では、生鶏肉の20~80%がカンピロバクターに汚染されているとされています。適切な加熱調理と衛生管理を行うことが重要です。