アニサキス、カンピロバクター、ノロウイルス、この3つで食中毒の原因の8割を占めますが、アニサキスはそのトップに君臨する食中毒の絶対的脅威です。
本記事では、アニサキス食中毒の原因や症状、対策法などについて徹底解説します。
知識を身につけることで、あなたと家族の安心な食生活を守ることができます。
一般の方だけではなく、食品従事者も確認の意味を含めて是非、最後までお読みいただき、アニサキスを原因とする食中毒から身を守る方法を振り返ってみましょう。
アニサキスとは
アニサキスとは、寄生虫の一種であり、魚類やイカ類など海洋生物に寄生していることが一般的です。
寄生虫を原因とする食中毒の97%程度をこのアニサキスが占めます(他にはクドアやザルコシスティス等があります)。
学術名は「アニサキス属」で、このアニサキスが人間に感染すると、アニサキス症*1という病気を引き起こすことがあります。
アニサキス症は、主に生魚や刺身を食べることで感染する食中毒で、胃や腸にアニサキスが寄生することで起こります。
また、アレルギー反応を引き起こすこともあり、症状は様々です。
アニサキスは、生の魚介類を食べる際に注意が必要な寄生虫であり、感染すると体調不良やアレルギー症状を引き起こすことがあり、予防策として、魚介類を十分に加熱する、冷凍処理を行うなどの対策が効果的です。
アニサキス食中毒の原因
厚生労働省の食中毒統計資料*2を確認すると、2022年度のアニサキスを原因とする食中毒は全国で566件・患者数578・死者0となっています。
2022年、食中毒発生件数の全体が962件ということを考えれば、アニサキスを原因とした食中毒の割合が高いことがよくわかります。
ここでは、原因や感染源、感染経路、感染力などについてそれぞれ解説します。
*2 厚生労働省-食中毒統計資料(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)
原因となる主な食品
アニサキス食中毒を引き起こす主な食品は、生魚や刺身、寿司、刺身サラダ、魚のタルタルソースなど、生の魚介類を使用した料理です。
特に、寄生虫が多く見られる魚種には、サバ、サケ、イワシ、アジ、カツオ、タラなどがあります。
これらの魚介類を十分に加熱調理しない場合、アニサキス食中毒のリスクが高まります。
感染源と感染経路
アニサキス食中毒の感染源は、主に生の魚介類に寄生しているアニサキスです。
感染経路は、生魚や刺身、寿司などの生の魚介類を食べることで、アニサキスが人体内に侵入し、胃や腸に寄生することが一般的です。
また、調理過程で手に付着したアニサキスを不十分な手洗いで残したまま、他の食材に移すことも感染経路となり得ます。
アニサキスの感染力
アニサキスは、感染力が非常に強い寄生虫であり、生きたまま人体に侵入すると、短期間で胃や腸に寄生し、症状を引き起こします。
また、アニサキスによるアレルギー反応は、寄生虫が死んでいても発症することがあります。
感染経路やシーン・事例
アニサキス食中毒は、刺身や寿司などの生魚料理を食べる際に発症することが多いです。
また、家庭での調理時に、生魚を切る包丁やまな板にアニサキスが付着し、他の食材に移ることで感染するケースもあります。
特に、釣りが趣味で釣ってきた魚をご自宅で捌いて食べているご家庭などでは十分に注意する必要があります。
海水浴や釣りの際に、手に付着したアニサキスを経口摂取することで感染することもあります。
アニサキスによる食中毒の潜伏期間や症状など
潜伏期間や症状などを予備知識として持っておくことで、その疑いがあったときも必要以上に焦らず冷静な対処ができるようにしましょう。
潜伏期間
アニサキス食中毒の潜伏期間は、概ね感染後1~10時間(多くは8時間以内)程度です(個人差あり)。
症状が現れるまでの時間は、感染したアニサキスの種類や個体数、感染部位、免疫状態などによって異なります。
症状ー初期症状
アニサキス食中毒の初期症状は、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などが主です。
多くの場合で、生魚を食べた数時間後、みぞおちに激しい痛みを感じます。
これらの症状は、アニサキスが胃や腸に寄生し、炎症を引き起こすことによって生じます。
また、アニサキスによるアレルギー反応が起こる場合、発疹やかゆみ、蕁麻疹、喘息様症状、アナフィラキシーショックなどの症状が現れることがあります。
致死率や死亡事例
アニサキス食中毒による致死率は非常に低く、適切な治療を行えばほとんどの場合で回復します*3。
ただし、アナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー反応が起こる場合、速やかな対処が必要です。
死亡事例は稀ではありますが、アナフィラキシーショックによる死亡例が報告されており、アレルギー症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
自分や家族にその症状がみられたら
アニサキス食中毒の症状が自分や家族に現れた場合、まずは冷静に対処することが大切です。
軽度の腹痛や吐き気の場合でも、無理をせず安静にすることが望ましいです。
また、症状が重篤であるか、アレルギー反応が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
症状が現れる前に、アニサキスを摂取した可能性がある生魚料理を食べたことを医師に伝えることが重要です。
これにより、医師が適切な診断と治療を行うことができます。
また、アニサキス食中毒は一般的な食中毒とは異なり、他の人に感染する心配はありませんが、家族が同じ食材を食べていた場合、同様の症状が現れることがありますので注意が必要です。
アニサキス食中毒の予防には、生魚料理を避けるか、適切な処理を行うことが大切です。
家庭で調理する際には、魚を十分に加熱調理するか、アニサキスの感染が疑われる魚種を凍結処理してから調理することを心がけましょう。
また、「なんだ、そんなことか」と思うかもしれませんが、食事の際には、生魚料理に含まれるアニサキスを見つけるために、食材をよく観察することは非常に有効な対策です。
アニサキス食中毒の対処方法
アニサキスを原因とする食中毒が発生した場合の応急処置と治療法について解説します。
応急処置
アニサキス食中毒の症状が現れた場合の応急処置として、まずは十分な水分補給を心掛けることが重要です。
脱水症状を防ぐため、経口補水液やスポーツドリンクなどで水分を補給しましょう。
また、アレルギー症状が現れた場合は速やかに医療機関へ向かい、アナフィラキシーショックなど重篤な症状に対する治療を受けることが必要です。
特に、アニサキスが原因となる食中毒は、早期発見・早期治療が効果的な対策となりますので、症状が現れた際は迅速な対応が求められます。
近年では、正露丸(第2類医薬品)がアニサキスに有効だとする研究や論文が多く発表されているため、医師に正露丸の服用をすすめられることも少なくありません。
[ 参考 ]
アニサキスに効く正露丸 – 全国海水養魚協会(https://www.yoshoku.or.jp/news/20210927_suikei01/)
DI Online-アニサキス症に正露丸がなぜ効くか(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201611/548874.html)
治療法
アニサキス食中毒の治療法は、症状の程度やアニサキスの寄生部位によって異なります。
軽度の症状の場合、対症療法として、解熱鎮痛剤や胃薬を用いることがあります。
また、脱水症状がある場合は水分補給が必要です。
重度の症状やアレルギー反応がある場合は、医師による適切な治療が必要です。
例えば、内視鏡を用いてアニサキスを摘出する手術や、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤などの投与が行われます。
アニサキス食中毒の事例
アニサキス食中毒は、生魚や加工食品を摂取したことによって発症することが多いため、日本では寿司や刺身を食べる機会が増える春から秋にかけての期間に発生しやすい事例が報告されています。
ある事例では、寿司屋で刺身を食べた後、翌日に腹痛や吐き気が現れ、アニサキス食中毒と診断されたケースがあり、内視鏡検査でアニサキスが見つかり、内視鏡手術によって摘出されました。
また、別の事例では、家庭で調理した魚介類の料理を食べた後、数時間以内に激しい腹痛を訴える患者がいました。
アレルギー反応も併発し、蕁麻疹や発熱が現れ、医療機関で治療を受け、無事回復しました。
このような事例から、アニサキス食中毒は、食材の調理法や加工過程に注意を払うことが非常に重要であることがわかります。
アニサキス食中毒の予防
言うまでもなく、食中毒は発生する前にその脅威を事前に回避することがもっとも重要です。
食材選びや調理法、アニサキスが含まれる可能性が高い食材を知っておくことで、意識が高まり、まさかの食中毒を未然に防ぐことができるかもしれません。
食材選びと調理法
アニサキス食中毒を予防するためには、食材選びと調理法が重要です。
新鮮な魚介類を選ぶ際には、目や鰓の色、身の弾力などをチェックしてください。
また、アニサキスの感染リスクがある魚介類を調理する際には、加熱調理や冷凍処理が効果的です。
具体的には、魚介類を摂氏63度以上で1分以上加熱したり、マイナス20度以下で24時間以上冷凍保存することで、アニサキスを死滅させることができます。
とにかくよく噛む
アニサキスは刺激に弱く、傷がつくとすぐに死にます。
とにかく、よく噛んで食べることを心がけることで一定のリスク回避ができます。
目視で確認する
アニサキスの大きさは、長さ2~3cm、幅は0.5~1mm程度です。
菌やウイルスとは異なり、その大きさからほとんどの場合、目視で確認することができます。
アニサキスがいるリスクが高い食品を食べる場合は、特に目視でできる限り確認するようにしましょう。
食中毒を引き起こすアニサキスが含まれる食材や料理の特定
アニサキスが含まれる可能性が高い食材は、特に青魚や鮭、イカなどです。
これらの魚介類は、生のまま食べることが一般的なため、アニサキスによる食中毒のリスクが高くなります。
また、刺身や寿司、魚のたたきなど、生もしくは加熱が不十分な料理にも注意が必要です。
アニサキスに関するよくある質問
- アニサキスを食べてしまったらどうなる?
アニサキスを食べてしまった場合、アニサキスが生きていると食中毒症状が現れることがあります。症状には、腹痛、嘔吐、下痢などが含まれます。ただし、アニサキスが死んでいる場合は、食中毒にはなりません。
- 魚を凍らせたらアニサキスは死ぬ?
魚をマイナス20度以下で24時間以上冷凍することで、アニサキスは死滅します。この冷凍処理が適切に行われれば、アニサキスによる食中毒のリスクは低減されます。
- アニサキスの殺し方
アニサキスを死滅させる方法は、加熱調理と冷凍処理があります。加熱調理では、魚介類を摂氏63度以上で1分以上加熱することで、アニサキスを死滅させることができます。
- アニサキスは魚加熱後は食べても平気?
魚を十分に加熱した場合、アニサキスは死滅し、食中毒のリスクは低くなります。ただし、アレルギー体質の方は、死滅したアニサキスによってアレルギー反応が起こることがあります。
- アニサキスに正露丸は効果ある?
近年では、正露丸(第2類医薬品)に含まれる木クレオソートがアニサキスに有効だとする信頼性が高い研究や論文が多く発表され、アニサキスの活動を抑えることがわかっています。そのため、医師に正露丸の服用をすすめられることも少なくありません。
- アニサキスが多い魚は?
アニサキスが多く寄生している魚は、主にサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどです。これらの魚介類を生食する際は、アニサキスによる食中毒のリスクが高くなります。
- アニサキスによる食中毒になった場合、他の人にうつりますか?
アニサキスによる食中毒は、感染症ではないため、他の人にうつることはありません。
- アニサキスによる食中毒を放っておいたらどうなる?
アニサキスによる食中毒を放っておくと、症状が悪化することがあります。重度の腹痛や嘔吐が続く場合は、脱水症状や電解質バランスの乱れが生じることがあり、緊急の治療が必要となることもあります。また、稀にアニサキスが腸壁を貫通し、腹腔内に炎症を引き起こすこともあります。このため、症状が現れたら速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
ただし、アニサキスは人の胃液によって死ぬため、長く生きることはありません。アニサキスの生存期間は長くても4日程度とされています。
- アニサキスはどのくらいの大きさですか?
長さ2~3cm、幅は0.5~1mm程度です。
菌やウイルスとは異なり、誰でも目視で十分確認できる大きさです。