食品の衛生管理を前にして、細菌検査(微生物検査)を無視することはできません。
細菌検査をどのように考えるべきなのか、その重要性について解説します。

食品衛生管理と細菌検査の概要

食品の微生物検査は、食品の安全性を確保するためになくてはならないものです。
その目的は、食中毒を引き起こす微生物の有無や衛生状態を調べることであり、食品事業者は原材料の調達から製造、輸送、保管までの一連のプロセスで、食品の安全性を確認する必要があります。
このため、細菌検査は食品衛生管理の基本となる手法と言えます。

一方、食品衛生監視に関する法令・指針は、食品の安全性を担保するために国や地方自治体が設けている規制です[1]。これらの法令・指針に沿って、食品事業者は適切な衛生管理を行うことが求められます。例えば、厚生労働省が出している「食品衛生監視票」は、食品事業者に対する監視指導の強化を図るためのものであり[1]、法令・指針に従い、細菌検査を含む衛生管理が実施されることが期待されます。

[1]厚生労働省-食品等事業者の衛生管理に関する情報(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01.html)

食品衛生管理のプロセス

食品衛生管理のプロセスは、原材料の調達から製造、輸送、保管まで一貫して行われるべきです。
原材料の調達から製造までの安全性確保は、食品事業者が品質の良い原材料を選び、衛生的な環境で製造することが求められます。例えば、原材料の仕入れ先の選定や、製造工程での手洗い・手袋着用などの衛生管理が重要です。

輸送・保管における衛生管理も食品の安全性を維持する上で欠かせません。
温度や湿度が適切に管理された車両で輸送されなければなりません。
また、保管時には、冷蔵・冷凍庫の温度管理や、湿気の対策などが必要です。
冷蔵品は一定の温度帯で保管され、賞味期限や消費期限に注意して管理される必要があります。

食品衛生管理のプロセスは原材料の調達から製造、輸送、保管までの一連の流れが重要です。適切な衛生管理が行われることによって、消費者に安全な食品の提供が実現されるのです。

進化する細菌検査の技術

細菌検査の方法と技術は、食品の安全性を確認するために重要な技術です。
一般的な細菌検査の手順は、まず試料を採取し、適切な培地で培養させることです。次に、菌の成長を観察し、特定の細菌が存在するかどうかを確認します。このプロセスは、簡易的な検査から高度な分析まで様々な技術が利用されることがあります。

最新の細菌検査技術と機器には、迅速で正確な結果を得るための新しい手法が開発されています。
例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は、微生物のDNAを増幅させることで、短時間で検出が可能な技術です。また、MALDI-TOF MS(マルディ・トフ質量分析法)は、細菌のタンパク質の質量分析により、迅速かつ正確に同定(同一であることを見きわめること)することができます。さらに、最近では、バイオセンサーやAIを活用した細菌検査技術も開発されており、食品の安全性確認の向上に役立っています。

細菌検査の方法と技術は、従来の手法から最新の技術まで幅広く展開されており、食品の安全性を確認する上で重要な役割を果たしています。これらの技術の発展により、より迅速かつ正確な検査が可能となり、研究が進めば進むほど消費者に安全な食品が提供されていくでしょう。

細菌検査の方法

細菌検査の方法

今日では、さまざまな細菌検査の方法がありますが、代表的な細菌(微生物)検査方法の種類と検査結果の判断方法について少し触れておきます。

培養法

微生物を含む試料を特定の培地に植え付け、一定期間温度や湿度を調節して、微生物の増殖を促進する方法です。培養法は、総菌数検査や大腸菌検査などに使用されます。
検査結果の判断方法は、増殖した微生物の形態や染色性、生化学的性状を観察し、特徴に基づいて同定します。

PCR法

微生物のDNAを増幅させることで、微生物の存在を検出する方法です。PCR法は、迅速検査や治療薬耐性菌検査に使用されます。
検査結果の判断方法は、増幅された遺伝子断片のサイズや配列を解析し、目的の微生物と一致するかどうかで判断します。

マルディ・トフ質量分析法(MALDI-TOF MS法)

マルディ・トフ質量分析法は、微生物のタンパク質を質量分析し、その質量分布パターンから同定する方法です。
検査結果の判断方法は、質量分析で得られたパターンを既知の微生物のパターンと照らし合わせ、一致度が高いものを同定します。

ELISA法

微生物の抗原と抗体を利用して、微生物の存在を検出する方法です。ELISA法は、食品中の病原菌や毒素の検査に使用されます。
検査結果の判断方法は、試薬との反応強度(色の濃さ)を測定し、閾値を超えるかどうかで陽性・陰性を判断します。

インパクション法

微生物が存在する場合に、その微生物が増殖することで試薬が変色する現象を利用して、微生物の存在を検出する方法です。インパクション法は、食品中の病原菌や毒素の検査に使用されます。
検査結果の判断方法は、培養後、成長したコロニーの数を数え、その数に基づいて微生物の濃度や汚染度を評価します。特定の基準値を超える場合は、環境が微生物によって汚染されていると判断されます。

細菌検査の信頼性の担保は認定制度と外部精度管理

認定制度と外部精度管理は、細菌検査の信頼性を担保する上で重要です。
ISO/IEC 17043:2010認定は、試験・校正分野の相互評価制度(PT)の運営に関する国際規格です。
この認定は、外部精度管理の適切な運営を行うための基準を設定し、それに適合する機関に認定を与えるものです。
この認定を受けた機関は、細菌検査の信頼性を高めるための外部評価を提供しています。

細菌検査技能評価試験(外部精度管理、サーベイ)は、検査機関や技術者の技能を評価する試験です。
試験を受けることで、自らの技術レベルを把握し、必要に応じて改善策を講じることができます。試験の受け方は、認定を受けた機関のウェブサイトや案内に従って申し込みを行います。試験は、試料の提供や結果の報告など、機関が定める手続きに従って実施されます。

認定制度と外部精度管理は、細菌検査の信頼性を担保し、技術者の技能向上を促す役割を果たしています。ISO/IEC 17043:2010認定を受けた機関の試験を受けることで、検査機関や技術者は自らの技能を客観的に評価し、改善に努めることができます。これにより、食品の安全性に関する信頼性が向上し、消費者に安全な食品が提供されることが期待されます。

食品事業者向けの衛生管理対策

食品事業者向けの衛生管理対策は、消費者への安全な食品提供に欠かせません。
監視指導の強化に対応する方法として、まずは適切な衛生管理マニュアルの整備が重要です。
定期的な社内研修やスタッフの衛生意識向上も効果的な対策の一つです。
さらに、原材料の管理や製造工程、輸送・保管の段階での衛生管理も徹底することが求められます。

高齢者を対象とした食事サービスの衛生管理には、高齢者特有の健康リスクに注意が必要です。
たとえば、嚥下困難やアレルギーの対応が重要となります。
また、高齢者は免疫力が低下していることから、細菌やウイルスに対する感染リスクが高まります。
そのため、調理場や食器の消毒、従業員の衛生教育を徹底することが大切です。

食品事業者向けの衛生管理対策は、監視指導の強化への対応や高齢者向け食事サービスの衛生管理を考慮して取り組むことが重要です。
適切な衛生管理マニュアルの整備やスタッフ教育を行い、原材料から消費者への提供までの全工程で衛生管理を徹底することで、安全な食品を提供し、消費者の信頼を獲得することができます。